本当にあった「うんこ」の話

 
 
もう別に恥ずかしくないし時効だと思うので話す。
 
小3のときにUNKを漏らしたことがあった。
 
授業はなんとかやり過ごしていたが、掃除の時間に「なんか臭くね?」って犯人探しが始まってさあ大変。
 
 
容疑者は同じ清掃班の7人。
 
5年生の眼鏡女がみんなを整列させて、6年生のジャイアンみたいな班長が取り調べを順番に行うことになった。
 
逃げることもできず、ただ緊張と絶望だけが心を支配していた。人生で初めて「終わった」と思った瞬間だった。
 

絶望!!!絶体絶命!!!

 
しかし、もうどうしようもない。
穴があったら入りたかったし、土があったら還りたかった。
 
 
 
下級生の検査を終えた班長が近づいて僕の顔を見る。体は硬直して動かなかった。覚悟を決めていたわけではない。ここで貼られたレッテルは清掃班7人だけの秘密になるはずもなく、爆発的スピードで校舎を駆け巡り、僕は「ウンコマン」になる。そんな諦めが体を縛って硬くした。
 
 
 
それが杞憂に終わるとは思ってもみなかった。
 
班長が腰をかがめ僕の尻に鼻を近づけて“鑑識”に入ったあと、彼の口から出たのは「違うね」という言葉だった。いくら鼻がつまっていても分からないはずがない。近づけば悪臭が鼻孔を刺激し、班長が警察犬なら高らかにワンワンと鳴くところだ。
 
 
それでも班長は顔色一つ変えることなく、いままでの検問でそうしてきたように「じゃあ次」と言った。
安堵はできなかったものの強張っていた体がここでようやく弛緩した。
 
 
 
それからは早かった。
 
 
僕の隣のスネオみたいな5年生を検査するなり「コイツだ!」と言い放った。
面食らった5年生は必死になって否定したが、班長は「もう終わりだ」と言ってほうきを頭の上でくるくると回し、廊下に向かった。班員もそれに従っていつも通りのそうじの時間が始まった。
 
 
もちろんスネオが犯人ではないのは明らかだった。薄手の白い短パンでは糞を隠すのにあまりにも脆弱すぎるからだ。
 
眼鏡女は作られた真実に不満そうだったが、いずれにせよ取り調べは終わった。何事もなくそうじの時間も終わった。僕の人生は終わらずに済んだ
 
 
 
班長はサスペンスをコメディに変えることで、僕を救ってくれた。
 
一瞬(一嗅ぎ)で全てを理解してスネオを犯人として偽装し、真犯人である僕を逃がしてくれた。
 
 
いままで生きてきた中でこれ以上の優しさに出会ったことがない。ありがとう班長、ごめんなスネオ。